お金の基本

Q. 日銀は債務超過になっても、なぜ破綻しないのか?

A. 破綻しない。理由は二つある。①日銀の「現金」は底をつかない構造になっている。②「返せ」と言える人がいない。

理由①:日銀の「現金」は底をつかない

まず家計の場合。病気・失業で収入が途絶え、現金・預金を生活費や返済に使い続けたとする。

家計のバランスシート

資産負債・純資産現金・預金不動産純資産(現金・預金分+ローン返済分)住宅ローン

現金・預金を使い果たすと…

資産負債・純資産現金・預金(ゼロ)不動産(すぐには売れない)純資産(ローン返済分のみ)住宅ローン(返済できない)

不動産という資産はあっても、手元の現金がゼロなら今月の返済ができない。現金が底をついた瞬間に破綻する。

では日銀は?三菱UFJが「日銀当座預金から10億円を現金で引き出したい」と連絡した場面を見てみよう。

日銀のバランスシート

右側(負債)は2種類ある。「日銀当座預金」は三菱UFJなど民間銀行が日銀に預けているお金。「発行銀行券」はすでに世の中に出回っている現金(紙幣)の総額だ。

資産負債・純資産各種資産国債日銀当座預金(三菱UFJ等の残高)発行銀行券

三菱UFJが10億円を現金で引き出すと、日銀は10億円分の紙幣を新たに発行して渡す。

資産負債・純資産各種資産(変化なし)国債(変化なし)日銀当座預金(-10億円)発行銀行券(+10億円)

左側(資産)は一切変わっていない。右側の「日銀当座預金が10億円減り、発行銀行券が10億円増えた」だけだ。同じ負債が別の形に変わったにすぎない。

ここが根本的に違う

家計:現金を使う → 資産(左側)が減る → 底をつく

日銀:引き出される → 右側の負債の形が変わるだけ → 資産(左側)は一切減らない

日銀は「現金を使う側」ではなく「現金を発行する側」だ。どれだけ引き出されても、左側が減ることはない。

理由②:「返せ」と言える人がいない(債務超過になっても)

量的緩和で日銀は国債を大量に購入し、BSが大きく膨らんだ。

資産負債・純資産各種資産国債(既保有)国債(新たに取得)発行銀行券日銀当座預金(民間銀行残高)日銀当座預金(増)
2012年(緩和前)約160兆円
2024年(現在)約800兆円

2012年の約160兆円から、5倍以上に膨らんだ。

そして2022年以降の金利上昇で、大量保有する国債に含み損が発生。資産の時価が負債を下回る「債務超過」の状態とも言われている。

家計なら、この状態で債権者から「返済してください」と迫られて終わりだ。では日銀は?

日銀の負債(発行銀行券)は、誰も「返せ」と言えない

日銀の負債の大半は私たちが使う現金(発行銀行券)だ。1万円札を持って日銀に行っても、返ってくるのは「別の1万円札」だけだ。金本位制の時代なら「金と交換しろ」と言えたが、現代の紙幣にはその約束がない。「返せ」と言える人がいない以上、破綻の引き金を引ける人もいない。

含み損は、売るまで損失にならない

国債の価格が下がっても、満期まで持っていれば額面通りの金額が戻ってくる。日銀は売却を迫られる立場にないため、含み損はずっと「紙の上の数字」のままで終わる。

ただし:「破綻しない」と「国民が損しない」は別の話だ

日銀が破綻しないのは本当だ。しかし日銀が大量の国債を買い続けるということは、「政府が借金をして、中央銀行がそれを引き受ける」という構図になっていく。これを際限なく続ければ、市場に出回るお金の量が増えすぎてインフレが進む。

円の信任リスクの本質は「日銀が破綻する」ではなく、「円の購買力が下がる」ことだ。日銀が無事でも、スーパーの値段が上がれば国民の生活は苦しくなる。