Q. 食料品の消費税を「ゼロ」にするのはなぜ難しいのか?——非課税・不課税・ゼロ税率の違い
A. 「0%」と「非課税」は似て非なるものだ。消費税は「もらった税-払った税」の差額を納める仕組みなので、区分が変わると事業者の損得が真逆になる。
まず、消費税の仕組みをおさらい
消費税は「消費者が最終的に全額を負担する」設計だ。事業者は消費者からいったん預かるだけで、自分が仕入れで払った消費税を差し引いて、残りを国に納める。
例:スーパーが食品を仕入れて売る場合(現行8%)
① 食品メーカーから 1,000円 で仕入れる
→ 消費税8% = 80円 を払う(仮払消費税)
② 消費者に 1,300円 で売る
→ 消費税8% = 104円 をもらう(仮受消費税)
消費者が実質負担した104円のうち、80円はメーカーが先払いしている。スーパーが国に納めるのは差額の24円だけ——これが仕入税額控除の仕組みだ。
消費税には「4つの区分」がある
① 課税(10% / 8%)
通常の取引。仕入税額控除できる。
② ゼロ税率(0%)
「課税」だが税率が0%。売上に消費税はかからない。でも仕入税額控除はできる。輸出品がこれにあたる——外国で売るものに日本の消費税は乗せないが、製造時に払った消費税は還付される。
③ 非課税
制度上、消費税がかからない取引(医療・介護・学校教育・住宅の家賃など)。売上に消費税はかからない。そして仕入税額控除もできない。
④ 不課税(対象外)
そもそも消費税の対象にならない取引(給与・土地の売買・国外取引など)。③と似た扱い。
「ゼロ税率」と「非課税」——何が違うのか
食料品を「ゼロ」にする場合、どちらを選ぶかで事業者への影響が真逆になる。
ゼロ税率にした場合(消費者・事業者ともに得)
① 食品メーカーから 1,000円 で仕入れる
→ 消費税8% = 80円 を払う
② 消費者に 1,300円 で売る
→ ゼロ税率なので消費税 = 0円
結果:スーパーの実質仕入コストは1,000円のまま。値下げ効果がそのまま消費者に届く。
非課税にした場合(事業者が損する)
① 食品メーカーから 1,000円 で仕入れる
→ 消費税8% = 80円 を払う
② 消費者に 1,300円 で売る
→ 非課税なので消費税 = 0円
結果:スーパーの実質仕入コストは1,080円に膨らむ。利益を守るために売値を上げざるをえない。消費者に「0円」と言いながら、じわじわ値上がりする。
医療費が非課税なのに医療機関が潰れないのは、診療報酬が公定価格で別途補填されているからだ。食料品を単純に非課税にしても同様の補填がなければ、流通コストが上がるだけになる。
では、なぜゼロ税率は「難しい」のか
① 税収の穴が大きい
食料品の消費税(8%分)は年間約2兆円規模とされる。ゼロ税率にすると、この税収がそのままなくなる。さらに仕入税額の還付が発生するため、実際の財政負担はさらに大きくなる。
② インボイス制度との絡み
2023年から始まったインボイス制度は、仕入税額控除を正確に管理するための仕組みだ。ゼロ税率の品目が増えると、「どの取引がゼロ税率か」を全取引で管理する必要が生まれ、事業者の事務負担が激増する。
③ 「食料品」の線引きが難航する
外食はゼロか? テイクアウトは? お酒は? お菓子は? イギリスはゼロ税率を1970年代から導入しているが、「チョコレートがけビスケット」が課税か非課税かで訴訟になった例がある。品目の線引きが際限なく複雑化する。
「1%」という案が出てきた理由
1%にした場合(現実的な妥協案)
「ゼロ税率」は還付が発生するため財政負担が重い。「非課税」は事業者が損して価格転嫁が起きる。「1%」はこの両方の問題を避けた妥協案だ。課税のまま税率を下げるだけなので、控除の仕組みはそのまま使える。
① 食品メーカーから 1,000円 で仕入れる
→ 消費税1% = 10円 を払う
② 消費者に 1,300円 で売る
→ 消費税1% = 13円 をもらう
現行8%では消費者が104円払っていたところが、1%なら13円になる。消費者の負担は大幅に減る。事業者の仕入控除も引き続き使えるのでコスト増もない。
ただし「ゼロにする」という公約の印象とはかけ離れており、「看板に偽りあり」という批判は免れない。
整理するとこうなる
・消費税は「もらった税-払った税」を納める仕組みなので、区分が変わると事業者の損得が変わる
・ゼロ税率=課税だが0%。仕入の控除ができるので事業者にも消費者にも恩恵がある。ただし「税収ゼロ+仕入分の還付まで出ていく」二重の財政負担になる(1%なら税収が減るだけ。ゼロ税率は国が逆に払い出す)
・非課税=仕入の控除ができないので、事業者のコストが増え、価格転嫁が起きやすい
・「1%」は仕組みをいじらず税率だけ下げる現実的な妥協案