お金の基本

Q. 世の中のお金は、誰が生み出したんだ?ーー政府の場合

A. 政府が国債を発行して銀行から借り、それを公共事業や給与として支払った時点で市中のお金が増える。民間銀行と違い、技術的な上限はない——ただし「できる」と「やっていい」は別の話だ。

政府がお金を増やす仕組み

政府が国債(借用書)を発行する。税収だけでは足りない分を借金で賄う。

政府のバランスシート

資産負債・純資産各種資産(インフラ等)現金(税収)純資産

国債を発行すると…

資産負債・純資産各種資産(インフラ等)現金(税収)現金(国債で調達)純資産国債(新たに発行)

左側(資産)と右側(負債)が同時に増える。「借金でお金を調達した」状態だ。

民間銀行が入札で国債を購入する。銀行の持つ日銀当座預金が、政府の口座(日銀内の国庫)に移動する。

民間金融機関(101銀行)のバランスシート

資産負債・純資産日銀当座預金貸出金(Cさんへ)自己資本Aさんの預金Bさんの預金Cさんの預金

国債を購入すると…

資産負債・純資産日銀当座預金(減)国債(新たに取得)貸出金(Cさんへ)自己資本Aさんの預金Bさんの預金Cさんの預金

左側の資産の中身が入れ替わっただけで、右側(預金・自己資本)は一切変わっていない。この段階ではまだ市中のお金は増えていない。銀行が持っていた既存のお金が政府口座に移動しただけだ。

政府がそのお金を公共事業の代金・公務員の給与として支払う。企業や家計の銀行口座(普通預金)に着金する。

ここで初めて市中のお金が増える

政府口座から民間の銀行口座にお金が移る。受け取った企業・家計の口座残高が増える——これが新たに市中に生まれたお金だ。

日銀はなぜ、民間金融機関の国債を買い取るのか?

理由は2つある。

A. 金利をコントロールするため

日銀が国債を買い取ると民間銀行の日銀当座預金が増え、準備預金制度の基準を超えた額を保有する銀行が増える=コール市場では「お金を貸したい銀行」が増えるので金利が下がる。日銀はこの操作で政策金利を目標水準に誘導している。国債を買い取るのは個々の銀行の手元を補充するためではなく、市場全体の資金量を調整して金利を動かすのが本来の目的だ。

B. 銀行が安心して国債を買えるようにするため

国債は満期まで持てば元本が戻るが、途中で現金が必要になったとき売れないと困る。日銀が市場で買い取ることで「いつでも売れる」という安心感が生まれ、銀行が国債を買いやすくなる。これがないと、大して利回りの高くない国債を銀行がそもそも買わなくなる。

日銀の国債買取は通常時もやっていることではあるが、量的緩和時は取り扱い量が全然違う

日銀の国債買い取りは金融緩和のときだけではなく、通常時も「公開市場操作」として日常的に行っている。ただし通常時は金利の微調整が目的なので量は小規模だ。

量的緩和(非常時)は話が別で、政策金利がゼロ近辺まで下がって「これ以上下げられない」という状況で、大量に国債を買い取ることで市場に資金を大量供給する。アベノミクスがこれで、日銀のBSが異常なほど膨らんだのはこの時期だ。

日銀のバランスシート(国債買い取り後)

資産負債・純資産各種資産国債(既保有)国債(101銀行から取得)日銀当座預金(民間銀行残高)発行銀行券101銀行の日銀当座預金(増)

例えば日銀が101銀行から国債を100万円分買い取る場合、日銀は現金を用意するわけではない。101銀行が日銀に持っている口座(日銀当座預金)の残高に、ただ「+100万円」と打ち込むだけだ。101銀行の国債は日銀の資産になり、その対価として日銀当座預金の数字が増える。これが日銀だけに許された「お金を生み出す」仕組みだ。この「日銀当座預金+世の中に出回っている現金」の合計をマネタリーベースと呼ぶ。

民間金融機関(101銀行)のバランスシート(日銀買い取り後)

資産負債・純資産日銀当座預金(補充)貸出金(Cさんへ)自己資本Aさんの預金Bさんの預金Cさんの預金

右側(預金)は変わっていないので、この時点では市中のお金は増えていない。ただし101銀行の日銀当座預金額が国債購入前に戻ったので、準備預金制度(預金残高に対して一定割合を日銀当座預金に積む義務)上の余裕が生まれ、101銀行は再び民間への貸出が行いやすくなる。銀行が貸出を増やせば市中のお金が増えていく——この「企業や個人が実際に保有するお金の総量」がマネーサプライだ。

ここで2つの「お金の量」を整理しておく

マネタリーベース——日銀のBSの右側「発行銀行券(現金)+日銀当座預金」の合計。日銀が直接コントロールできる。国債を買い取るたびに日銀当座預金が増え、マネタリーベースが膨らむ。

マネーサプライ(マネーストック)——企業や個人が実際に保有しているお金(現金+銀行預金など)の総量。上のBSで「右側(預金)は変わっていない」のが示すとおり、日銀がマネタリーベースを増やしても、銀行が誰かに貸し出して初めて増える。

逆に貸し出さなければ増えない——アベノミクスで日銀が大量に国債を買い取ったのに市中のお金が思ったほど増えなかったのは、銀行が貸出を増やさず手元に積み上げたままにしたからだ。

なぜ日銀は政府から直接買わないのか?

日銀が政府から直接国債を買う「財政ファイナンス」は、財政法第5条で原則禁止されている。際限なくお金を刷って政府の借金を穴埋めすれば、通貨への信頼が崩れるからだ。民間を経由することで、この歯止めが機能している——建前上は。

民間銀行と政府、上限の違い

民間銀行はBIS規制により、自己資本の約12.5倍までしか貸し出せない。自己資本という外部制約がある。

政府の国債(円建て)は、最終的に日銀が市場で買い取ることができる。「円が足りなくて返せない」という事態が技術的に起きない。ただし「できる」と「やっていい」は別の話で、やりすぎるとインフレと円安という形で国民にコストが回ってくる。

では、実際の歯止めは何か

日銀が国債を買い続けると、円の信頼が下がって円安が進む。円安が進めば輸入物価が上がり、国民生活を直撃する。また金利が上昇すると国債の利払い費が膨らみ、財政をさらに圧迫する悪循環も起きうる。