お金の基本

Q. ミクロでは正しい節約が、マクロでは経済を壊す——合成の誤謬(ごびゅう)とは

A. 個人にとって合理的な「節約」も、全員が同時にやると経済全体を縮ませる。ミクロで正しいことがマクロで間違いになる——これを合成の誤謬(ごびゅう)と呼ぶ。

なぜ節約が経済を壊すのか

「収入が減ったから節約しよう」——これは個人として完全に正しい判断だ。しかし全員が同時にやると、こうなる。

みんなが節約企業の売上が減る給与・雇用が減るさらに節約するしかない

誰かの支出は誰かの収入だ。みんなが使わなければ、みんなの収入が減る。節約しようとした結果、節約せざるを得ない状況が深まっていく。

ミクロとマクロで「正解」が逆になる

ミクロ(個人)の正解

可処分所得が減っている。将来が不安だ。今は節約して貯めておこう。

マクロ(経済全体)の正解

消費が止まると経済が縮む。誰かが使い続けなければ、全員の収入がさらに減る。

両者は矛盾していない——個人の合理的行動が積み重なると、全体として非合理な結果を生む。これが合成の誤謬(ごびゅう)の正体だ。

日本の「失われた30年」はこの罠だった

バブル崩壊後、企業も個人も一斉に借金を返し・消費を抑えた。それぞれの判断は正しかった。しかし全員がやった結果、需要が消え、物価が下がり(デフレ)、さらに収入が減るという悪循環にはまった。

デフレスパイラル

物価が下がる → 「もっと安くなるから待とう」 → さらに消費が減る → さらに物価が下がる → 企業の売上・給与が下がる → さらに消費が減る

ループを断ち切るには「誰かが先に動く」必要がある

民間が財布を締めているとき、唯一「先に動ける」のが政府だ。政府が借金をして支出を増やす(財政出動)のは、このループを断ち切るための介入だ。

政府が支出を増やす誰かの収入になるその人が使う循環が戻り始める

ケインズが1930年代の大恐慌を見て「政府が積極的に支出すべき」と主張した背景には、この合成の誤謬がある。

「節約は美徳」は、みんなが豊かなときだけ成立する

好景気のときに個人が節約しても、需要は十分にある。しかし不況のときに全員が節約すると、需要が消えて不況がさらに深まる。「節約は美徳」というミクロの正解が、経済全体にとっての正解とは限らない。