Q. なぜ企業は急に株主のほうを向くようになったのか?
A. 「物を言わない株主」に囲まれていた日本企業が、バブル崩壊をきっかけに「物を言う株主」と向き合わざるを得なくなったからだ。この転換には30年かかった。
かつての日本:「会社は株主のものではなかった」
戦後〜バブル期の日本企業は株式の持ち合いによって守られていた。銀行・グループ会社・取引先が互いに株を持ち合い、「友好的な株主」で固めることで、外部からの圧力を遮断していた。
この仕組みの下では、株主は「配当をよこせ」「利益を返せ」と言わない。経営者は従業員・取引先・地域社会を優先できた。これが日本型の「ステークホルダー資本主義」だった。
なぜ崩れたのか——30年の変化
1990年代
バブル崩壊→持ち合い解消が始まる
銀行が不良債権処理のために持ち合い株を売却。友好的な株主が市場に放出され、代わりに利益を求める外国人投資家が買い始めた。
2000年代〜2010年代
外国人株主比率が30%超へ
外国人機関投資家は「ROE(自己資本利益率)が低い」「内部留保が多すぎる」と批判を強めた。日本企業のROEは欧米の半分以下だった。
2014〜2015年
アベノミクス:コーポレートガバナンス改革
「スチュワードシップ・コード」(機関投資家が株主として積極的に物を言う義務)と「コーポレートガバナンス・コード」(独立社外取締役の義務化)が導入された。取締役会に「株主目線」が入り始めた。
2023年〜現在
東証「PBR1倍割れ」改善要求
日本の上場企業の約半数がPBR(株価純資産倍率)1倍未満——「市場は解散した方がマシだと思っている」状態。東証が異例の改善要求を出し、自社株買い・配当増加が急加速した。
結果:企業のお金の使い道が変わった
かつて(持ち合い時代)
内部留保に貯め込む
従業員・取引先を優先
株主への還元は低水準
今(株主圧力時代)
自社株買い・配当が過去最高
ROE・PBRを意識した経営
内部留保を「吐き出す」圧力
この流れを知ると、NISAの意味が変わる
企業が「株主に還元する」方向にシフトした以上、その恩恵を受けられるのは株を持っている人だけだ。賃金として分配されなかった利益が、配当・株価上昇として株主に流れる。
日本人の家計金融資産の52%はまだ現金・預金だ。NISAは「この構造変化の恩恵を受ける側に回る」ための、今のところ最もシンプルな手段だ。