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Q. なぜ日銀のインフレ目標は「2%」なのか?——ゼロでも1%でも5%でもない理由

A. 「2%」は根拠のある落としどころだ。低すぎるとデフレへ転落するリスクがあり、高すぎると経済が混乱する。また「利下げの余白」を確保するためにも、ゼロより十分上である必要がある。

① まず「なぜゼロじゃだめなのか」

「物価が上がらないなら最高じゃないか」と思うかもしれない。しかし、ゼロに近いと少しの衝撃でデフレ(物価が下がり続ける状態)に転落するリスクがある。

デフレスパイラルの構図

物価が下がる → 「待てばもっと安くなる」と消費者・企業が買い控え → 需要が萎む → 企業の売上が下がる → 賃金カット・リストラ → さらに消費が減る → 物価がさらに下がる

日本は1990年代後半から2010年代にかけて、約20年間このスパイラルを経験した。一度はまると抜け出すのが非常に難しい。だから「ゼロ近傍は危険地帯」とみなして、意図的に少し上に目標を置く必要がある。

② なぜ「1%」でも「3%」でもなく「2%」か

2つの理由がある。

理由A:物価統計には「上方バイアス」がある

CPIなどの物価統計は、新製品の登場や品質の向上を完全には捉えられない。たとえば、同じ値段のスマホが5年前より格段に高性能になっても、統計上は「価格が変わっていない」と記録される。このため、統計上の数値は実際のインフレより0.5〜1%ほど高く出る傾向がある。つまり「統計上2%」でも「実態は1〜1.5%程度」という解釈になる。

理由B:利下げの「余白」を確保するため

景気が悪化したとき、中央銀行の最大の武器は「金利を下げること」だ。しかし金利はゼロ以下には(基本的に)下げられない。インフレ目標が2%なら、平常時の名目金利も2%前後に保てる。景気後退時に2%分の利下げ余地が生まれる。これがゼロ目標だと、金利がすでにゼロ近辺にあり、不況のときに使える手が尽きてしまう。

③ では「もっと高くてもいいのでは?」

5%・10%のインフレでも利下げ余地は増える。しかし高すぎるインフレには別の問題がある。

企業への影響

物価が読めないと、設備投資や長期契約の計画が立てられない。不確実性が高まり、経済活動が委縮する。

年金生活者

固定収入で生活する人の購買力が急速に失われる。社会的な不公平が広がる。

信認の崩壊

一度「この国の通貨は信頼できない」と思われると、ハイパーインフレに転じるリスクがある。

2%は「デフレへの転落を防ぐのに十分高く、かつ経済の安定を壊さない程度に低い」という、実証的に積み上げられた落としどころだ。

④ 2%という数字は誰が決めたのか

実は、最初に「2%」を採用したのは1990年のニュージーランド中央銀行だ。当時は厳密な根拠より「キリのいい数字で国民に説明しやすい」という実務的な事情もあった。しかしその後、FRB・ECB・日銀など主要中央銀行が研究を重ねた結果、上記の理由から「2%が妥当」という学術的な根拠が積み上げられ、世界標準になった。

2012年

FRBが明示的に「2%」を物価安定目標として採用

2013年

日銀が「物価安定の目標」として2%を設定(黒田総裁就任・異次元緩和と同時)。それ以前は「1%程度」を目安にしていた。

2%は「目標」であり「上限」ではない

日銀が「2%を達成したから利上げした」のではなく、「2%が安定的・持続的に続く」と判断できて初めて正常化とみなす。一時的に2%を超えても、それがコスト上昇による一過性のものなら目標達成とは言わない。「安定的な2%」という言葉の重みがそこにある。