Q. なぜ国は税収を減らしてまでNISAを作ったのか?——表の理由と、その先にある構造
A. 表向きは「老後の自助努力支援」だが、構造的には「老後の面倒を国が見られないから、自分で投資して守ってください」という責任の移転でもある。そしてインフレが続く社会では、NISAを使える層と使えない層の間に、じわじわと大きな格差が生まれていく。
表の理由——政府の公式説明は3つ
① 老後の自助努力を促す
公的年金だけでは老後が足りなくなる。長期投資で自分で備えてほしい——というのが建前だ。2019年の「老後2000万円問題」が世間を騒がせたのも、まさにこの文脈から出てきた話だ。
② 「貯蓄から投資へ」で経済を回す
日本の家計金融資産の約半分は現金・預金で眠っている。アメリカでは約半分が株式・投資信託だ。この差が、長期にわたって資産格差の要因になっている。その眠った金を市場に流し込んで、企業の成長資金にしたい。
③ 短期の税収減は、長期の経済成長で取り返す
非課税にする分は確かに税収減だ。しかし市場が活性化して企業が成長すれば、法人税・消費税・所得税など別の形で税収が増える——というのが政府の計算だ。
「なぜ今のタイミングで拡充したのか?」という問い
新NISAが大幅に拡充されたのは2024年。これはインフレが本格化したタイミングと重なる。偶然かもしれないが、構造的に見ると一つのことが見えてくる。
インフレ社会では、現金は実質で目減りする
インフレ率3%で、銀行預金の金利が0.1%なら、毎年▲2.9%ずつ実質で目減りする。10年続けば購買力は約25%消える計算だ。
一方、株式や不動産などの実物資産は、インフレとともに名目価格が上がる。つまり「何を持っているか」によって、インフレの影響が正反対になる。
NISAは、その目減りから逃げるための手段だ。しかし使えるのは、余裕資金がある人だけだ。
使える人・使えない人
余裕資金があり、長期で放置できる人 → NISAで資産を守りながら増やせる
毎月の生活で精一杯の人 → 投資に回す資金がなく、インフレの影響をそのまま受け続ける
「意図があったかどうか」より、大事なことがある
政府が「インフレで借金を圧縮しよう」「投資家だけ得をさせよう」と意図したかどうかは、実はどうでもいい。
構造として、3つのことが重なっている
・国の借金はインフレで実質が目減りする(政府にとって有利)
・現金のまま持っていると実質で損をする(資産を持たない人に不利)
・NISAは投資できる層だけが守られる仕組みだ(資産を持つ人に有利)
意図したわけではなくても、この3つが揃うと「インフレを通じて現金保有者から資産保有者へ富が移転する社会」になる。陰謀でも誰かの悪意でもなく、インセンティブが自然に揃った結果だ。
じゃあ、どうすればいいか
NISAそのものは善でも悪でもない。「国がなぜ作ったか」を理解した上で使うツールだ。
使える立場にあるなら、使わない理由はない。インフレが続く社会で現金を持ち続けることの意味を、一度立ち止まって考えてみることが出発点になる。
インフレは、国にとっての借金帳消し装置であり、資産家にとっての追い風であり、現金保有者にとっての静かな課税だ。——経済学ではこれを「インフレ税」と呼ぶ。誰も徴収しにこないが、確実に取られている。