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Q. 日銀が金利を上げても、インフレが収まらないことがある?——財政理論が示す「金融政策の限界」

A. 財政赤字が膨らみ続ける限り、日銀が金利を上げてもインフレを抑えられない——どころか悪化させることもある。インフレは「金融政策だけ」では制御できない。

「金利を上げればインフレが収まる」——その前提が崩れるとき

教科書では「インフレが起きたら中央銀行が金利を上げる→お金を借りるコストが増える→消費・投資が冷える→物価が下がる」と説明される。これは正しい。

しかし、この論理には暗黙の前提がある。「政府の財政は、長期的にはちゃんと黒字になる」という前提だ。この前提が崩れると、金融引き締めが逆効果になる。

金利を上げると何が起きるか——財政側の反応

日銀が金利を上げると、政府が抱える国債の利払い費が増える。日本の国債残高は1,000兆円超なので、金利が1%上がれば利払いは年間数兆円単位で膨らむ。

日銀が金利を上げる
政府の利払い費が急増 → 財政赤字がさらに拡大
政府が国債を増発する
市場が「この国債は将来返せるのか?」と疑い始める
最終的に日銀が国債を買い取る(マネタイゼーション)しかなくなる
市場に出回るお金が増える → インフレが加速する

金利を上げて引き締めたつもりが、財政側の反応を経由して、最終的にインフレを悪化させる。これが「不快なマネタリスト算術(Unpleasant Monetarist Arithmetic)」と呼ばれる逆説だ。

政府の借金の「出口」は3つしかない

経済学者コクレーン(John Cochrane)らが提唱する「物価水準の財政理論(FTPL)」の直感は、実はシンプルだ。

政府が積み上げた借金を「片付ける」方法は、理論上3つしかない。

① 財政黒字で返す

税収を増やすか歳出を削り、黒字分で地道に返済する。正攻法だが、日本のような規模では現実的に困難。

② インフレで実質的に目減りさせる

物価が上がると「1,000兆円の借金」の実質的な重さが軽くなる。政府は名目の金額は返すが、その価値は下がっている。債権者(国債保有者)が実質的に損をする形で「帳尻が合う」。

③ デフォルト(債務不履行)

返せないと宣言する。ただし日本国債は円建てなので、日銀がお金を刷って返すことができる。そのため「円建てでは実質的なデフォルトは起きない」と言われる——が、それはつまり②に近い。

①が難しく、③が取れないなら、残るのは②だ。財政黒字の見通しが立たない国では、インフレが「論理的な帰結」になる。これがFTPLの核心で、どれだけ日銀が引き締めても、財政が緩み続ける限り物価は止まらない、という話につながる。

日本への含意

日本の国債残高はGDP比260%超。プライマリーバランス(利払いを除いた収支)の黒字化すら「目標」であり、実現の見通しは立っていない。FTPLの視点では、これは「財政が変わらない限り、インフレ方向への圧力が常にかかり続ける」ことを意味する——一時的なショックが収まっても消えない種類の圧力だ。

日銀が利上げを続けても、財政が緊縮しなければ上記のサイクルが回りやすくなる。「インフレは日銀の仕事」というのは、財政が健全であるときにだけ成り立つ話だ。

財政が緩み続ける限り、金融引き締めは「時間稼ぎ」にしかならない。インフレを本当に止めるには、財政の持続可能性を市場に信じさせることが必要だ。